クロユリさんと八月 こばやしぺれこ
「運命っていうものはさ、無数に並んだパイプからひとつを選ぶようなものだと思うんだ」
「はい?」
「その先に何があるのかわからない。もしかしたら先なんて無くて、飛び込んだ先は虚無かもしれない。それでも私はパイプを眺めているよりも、飛び込むことを選んだんだよ」
「はあ」
「もし選ばなかったら、いや選ばないのも選択肢のひとつなんだ。
『選ばない』を選んでいたら、私は今頃何ひとつ変わらないあのマンションで、毎日をやり過ごすことしかできなかったと思うんだ」
「それで?」
「……古雑誌まとめただけ偉くない?」
「だめです。今日中にお風呂のカビ取りまでやるって言ったのはユキです」
「ええーもう今川焼き買っておうちでお茶しようよぉ」
「だめです。お休みはあと三日しかないんですから」
「三日もあるよぉ」
「猫の一生は短いんです。三日は貴重な三日です」
「それ言うのずるいよぉ」
ホームセンターの資材売り場の前を、様々な洗剤の入ったカゴを下げた女と黒い猫又が通り過ぎていく。
こばやしぺれこ
作家になりたいインコ好き。暑さに負け気味
大掃除は寒い年末にやるよりも温かい(というより暑い)お盆にやる方が捗りますよね。
年末でもお盆でも休みの日はぐうたらしてたいですけど。